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最高裁判所第一小法廷 平成6年(オ)1025号 判決

上告人

伊藤正人

右訴訟代理人弁護士

長谷川安雄

被上告人

立川ハウス工業株式会社

右代表者代表取締役

栗原元

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長谷川安雄の上告理由について

債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対し先履行の関係にあり、同時履行の関係に立つものではないと解すべきであるから(最高裁昭和五六年(オ)第八九〇号同五七年一月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一三五号三三頁、最高裁昭和五五年(オ)第四八八号同六一年四月一一日第二小法廷判決・裁判集民事一四七号五一五頁参照)、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切ではない。論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大堀誠一 裁判官小野幹雄 裁判官三好達 裁判官大白勝 裁判官高橋久子)

上告代理人長谷川安雄の上告理由

原判決は最高裁判所の下記の判例と相反する判断をしている。即ち原判決は、譲渡担保においては債務の弁済と譲渡担保の目的物の返還とは、前者が後者に対して先履行の関係にあるものであって、同時履行の関係に立つものではないというべきである。と判断するが、この判断は昭和四二年(オ)第一二七九号、同四六年三月二五日最高裁第一小法廷判決「本件とは引き換え給付を求める当事者は逆であるが、「債務者が弁済期に債務の弁済をしない時は弁済に代えて確定的に目的不動産の所有権を債権者に帰せしめる旨の譲渡担保契約における債権者の清算義務及び右清算義務と債務者の不動産引き渡し義務との関係につき」、判決要旨は、「貸金債権担保のため債務者所有の不動産につき譲渡担保契約を締結し、債務者が弁済期に債務を弁済すれば、右不動産を債務者に返還するが、弁済をしないときは右不動産を債務の弁済に代えて確定的に債権者の所有に帰せしめるとの合意のもとに所有権移転登記が経由されている場合において、債務者が弁済期に債務の弁済をしないときは債権者は目的不動産を換価処分するかまたはこれを適正に評価することによって具体化する価額から債権額を差し引き、残額を清算金として、債務者に支払うことを要するのであって、債権者が、この担保目的実現の手段として、債務者に対し右不動産の引渡ないし明渡を請求する訴を提起した場合に、債務者が清算金の支払と引換えにその履行をなすべき旨を主張したときは、特段の事情のある場合を除き、債権者の右請求は、債務者への清算金の支払と引換えにのみ認容されるべきものと解するのが相当である。」という最高裁の判断に相反している。

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